「うわ…、朱字だらけですね。手厳しいなあ…。」
修整が入った原稿と指示とを見比べながら…
担当者が、苦笑いする。
「クライアントの要望です。ここ…、もう少し鮮やかな緑みの青に。」
カラーチャートを広げ、色合いを確認しながら…
彼は、私にだけ聞こえる声で…呟いた。
「埼さん、今夜…、空いてませんか?」
思わず…、彼を見上げる。
本当だ…、社長が言った通りの…展開じゃないか。
でも、やっぱり心は…揺れない。
「ごめんなさい、今日は用事が。」
「あー……。ですよね、スミマセン。」
「いえ…。……では、また後日取りに伺いますので、ご連絡ください。」
私は…
色恋沙汰に鈍感だと、よく言われる。
好意を寄せられていることも…
誰かに指摘されるか、
本人に告白されるまで…気づくことはなかった。
だけど、一度たりとも…
心を奪われることはなかった。
揺さぶられるような思いも…
なかった。


