「社長ー、もしS社から電話来たら、3時くらいに戻ると…お伝え頂けますか?」
「また出るのか?クリスマスだってのに、働くなあ、お前は。」
小さなデザイン事務所…。
今の私の…居場所。
仕事に追われることに、むしろ…感謝したい。
余計なことを、考えなくて…済むから。
「わかった!さっさと終わらせて早く帰っちまおうって魂胆だな?」
回転椅子をぎいっと鳴らして。
一見、胡散臭くも見える無精髭のオヤジが…
ニヤニヤと笑う。
これでも、昔は名の知られた…グラフィックデザイナー。
才能をひけらかすことなく、業界から足を洗った訳は知らないけれど。
会社を立ち上げ、一代で徐々に実績を上げて。
沢山のクライアントを抱える…
知る人ぞ知る、隠れたアトリエ的な会社へと…築き上げた。
「……違います。ただ、溜め込むと信用問題に関わってきますので…。」
「……。へー。なら、夜は俺と飲みにでもいくかー?」
「………。バカ言ってないで、仕事してください。お子さんがケーキ作ってくれてるんでしょう?サンタのおじさんが酒臭いってあり得ませんから。」
「……きっつー…。冗談だっての。」
「知ってます。」
「あ、そー…。相変わらず凄いバリア張ってんなあ…。」
「………。」
「M印刷の時期社長がお前んとこ気に入ってるそうだが?どうするよ?」
「どうするもこうするもないですよ。なにか言われた訳じゃないですし…。」
「お前に幻想抱いて散っていく男がまたひとり……。」
「……ちょっ…、人聞き悪いですよ?」
「まあ、独身貫くのも悪かあないけどな?けど…、誰にならお前の心を…開いてやれんのか、オッサンは心配な訳ですよ。」
「………。……さあ…。どうなんでしょう。考えたことが…ないです。」
「……ふーん。…で、お前は今から何処に?」
「M印刷さんです。初校返しに。」
「……今夜、誘われるな。賭けてもいいぞ?」
「残念ですが…今日は先約が。」
「………は?……え、今…何て?!」
身を乗り出して…あからさまに驚く社長に、
「では、行ってきます。」
踵を返して…
オフィスを後にした。
約束を…したつもりはない。
期待など…しない。
花束を抱えた彼が、
何処に行こうと…
私には、関係が…ない。


