君に、メリークリスマス





クリスマスイヴと言えど、朝はまだ…いつもの日常と同じ。




仕事へ向かう人達が…行き交う街。



耳には…、イヤホン。


履き潰したブーツを履いて。



私もまた…、その風景に溶け込む。




大通りの交差点。

信号待ちの人で…溢れかえって。



ぎゅうぎゅうと…

おしくらまんじゅう。


オフィス街の…、いつもの、光景。





背の低い私は、少し背伸びして……。




信号が青に変わるその時を……



待っていた。






「あれ……?」




横断歩道の向こう側に。


見覚えのある、シルエット。





「………マスター…?」



彼の持つ独特な雰囲気は…



あの、狭い空間から出ても…


目立ってしまうのか。





私の瞳が、彼を…捉える。






手元には…花束。



これから…店に向かうのだろうか?




いや……、もうお店は、通り過ぎている。







「……。ああ……、そっか…。」





今日は…


クリスマスイヴ。



深夜まで仕事している彼にとっては…



今しか、自由な時間はない。





恋人にでも、会いにいくのかもしれない。



花束に…


愛の言葉を込めて。










けれど、彼は終始視線を落としたまま…


一度も、顔を上げることはなかった。








横断歩道を渡りきって、また…信号が赤に変わる頃。




私は…ゆっくりと、振り返った。





小さくなっていく…背中に。




違和感を…おぼえる。





「何て顔…してるの?」




すれ違い際。



彼の顔は……泣きそうだった。









クリスマスに……俯いて歩く彼に、



自分の姿を見ているかのような感覚に…陥る。









「………。興味がある、か……。」





私を気にするのは……



ナゼ?