「………恋愛は……苦手です。それに…おひとりさまだから、今ここに…いるんですよ?」
「………そうですか。」
もっと、何か聞かれるんじゃないかと覚悟していたのに……。
彼は、それ以上、追求などしなかった。
分かっていた。
マスターとは…話が合う。
けどそれは、彼が私に合わせているからで…。ここのお客さんからしたら、皆、こういう錯覚に…陥ってしまうのだろう。
あくまでも…接客。
だから、私も…深入りしない。
表面上の付き合いだからこそ…話せるものが、そこにはあった。
そう……、
それは、綺麗なばかりの昔ばなしだったり……。
「マスター、あそこの…インテリア?…可愛いですね。前から思ってたんですけど、手作りっぽい小物がちらほら…。お店の雰囲気にぴったりですね 。」
私は、カウンターに置いてある、木の枝で作られた人形を…指差した。
コルクの詮と、ワイヤーで作ったこれまた可愛らしい椅子の上に…それがちょこん、と乗っている。
「こだわりですか?みんな、同じ雰囲気。だからかな…、どれをとっても、ここに調和するっていうか…。デザイナーさんが一緒?」
「……。鋭いですね、…ハイ、全部同じ人の作品です。」
「……可愛い…。私、デザイン事務所に勤めてて…。だからって訳ではないんですけど、こういうのに目がないんです。何て方ですか?」
「………。無名の作家とでも言っておきましょうか。」
「………。仕事に持ち込みませんから。個人的に、興味があるんです。」
「どこにも…売ってませんよ。どれも、一点物です。」
「オーダーするんですか?」
「いえ。勝手に持ち込んで来るんです。」
「………。なら、私もここで会えたら…頼めるでしょうか?」
「………彼は、気まぐれな人なので…。それに、人のために作るとは思えません。自己満足だと…言ってましたから。」
「……そうですかー……。」
残念、こんな温もりある小物って…
雑貨屋さんに行ってもなかなか見つからないのに…。
「……。ご自分で作ってみたらいかがですか?」
「え。」
「彼は、特別なものなんて…使ってません。近くにあるものをかき集めて、あたかもいい素材を使ったアートに変えてしまうんです。」
「………。へえ……。」
「思い浮かぶそうですよ、完成したものが……。さて、何をつくろうか、じゃなくて…あれを作ろうっていう感覚。アートは彼にとって1種の遊びでした。」
「そういうの、天才って言うんですよね。うまれもった…才能。」
「……普通の人ですよ、人よりちょっとモテるイケメンでしたけど。」
「………。」
マスターの、「彼」を語る口調は、ひどく懐かしむようでいて……
遠くを見つめる瞳が……少しだけ、寂しそうだった。
「……僕は、尊敬してました。きっと、あなたみたいな素敵な女性に見初められたと知ったら…喜んだでしょうね。」


