「俺……好きな人できた…」

さぁ……と。

涼しげな風が、屋上を駆け抜けた。

なのに、私の心はもやもやしたもので埋め尽くされていた。

気づきたくない。知りたくない。この気持ちを。

気づかないふりを、知らないふりをしていたのに。

なんで、今更……

彼を…片岡明を好きだって気づいてしまうの。

「昨日、その子が他の男に笑いかけてんの見て胸が痛くて……。
あぁ…俺、この子が好きなんだって…、気づいたときにはもう遅かった。
もっと早く気づけばよかったんだけど、知らないふりしてたんだ。
気づけば、今の関係を壊してしまいそうで…。
……こんなに好きなのに…っ」

今にも泣き出しそうな、片岡明。

…私の気持ちを代弁されているようで、すごく苦しくなった。

いつもと違う彼を知るたびに、胸が高鳴った。

風に揺れる柔らかな髪も、笑うと優しげに細められる瞳も、私を呼ぶ声も、私の手を握る大きな手も……。

何もかもが好きなのに。

届かない想いはどこにやればいいんだろう。

「…行きなよ」

だから、私は応援するよ。

私は臆病だから、言えないけど。

「その子に…伝えてきてよ」

彼には…後悔してほしくない。