そのとき、いつもと同じような、扉が開く音がした。

見なくても誰なのかはすぐにわかった。

「また来たの?」

「会いたかったからね」

そうあっけからんと言ってのける彼──片岡明は、コツコツと私のほうへと歩み寄ってきてるらしい。

断言できないのは、私が彼に背中を向けるように寝転がっているから。

「飽きないね。ほとんど毎日でしょ、ここ来るの」

「飽きないよ。麗がいるからね」

その台詞だけを聞けば、まるでタラシのようだけど、ここで彼を知ってからはそうは思わなくなった。

きっとそれは彼の本心。

そう知ると少しだけ暖かな気持ちになるのは、どうしてだろう。




近くに来た片岡明は、背を向けている私の手をそっと掴むと、そのまま自分のほうへに持っていく。

手を持っていかれたから、当然私もそっちのほうに身体が少し向くわけで。

彼は自分の顔のほうに私の掌(てのひら)を向けると、そっと音もたてずに唇を押しつけた。

掌に伝わってくる柔らかい感触と熱は、いつもの彼のおねだりの仕草だとわかっていても未だ慣れない。

掌の上のキスは確か…懇願。