「そうだなあ」
考える振りをしてタキシードの男性は空を仰ぐ。

そして、屈託ない笑みで、こう言うのだ。


「俺も、彼女を追いかけて死ぬかもね」


あははは。
冗談めかして笑う彼に、鶴嫁怪(つるかけ)は笑えなかった。

だってきっと、冗談じゃない。
この男はきっと、彼女が死ねば追いかけてしまうだろうから。


「愛されとるなあ、彼女はんは」

「うん。愛してるよ、俺は。…樒子(しきみこ)さんを」


そう言って微笑む彼の表情はどこか、哀愁を帯びているように見えてならなかった。

鶴嫁怪(つるかけ)は今度こそ、「幸せもんやなぁ」と言って笑うのだった。