「みずき。私とお父さんね、もう無理なの。」

お母さん、無理って何....?

「お前も分かるだろ?俺たち夫婦には、すれ違いがありすぎた。」

分からないよ..お父さん..。

ねぇ、二人とも何言ってるの..?


二人は私に近づいてきて、お母さんに手を、お父さんに肩を掴まれた。

「「だから」」

バラバラだった言葉が重なり、私の耳に入ってくる。

「「私と(俺と)、一緒に来なさい..!」」

「...っ!!!」

そのとき、強く掴まれている手や肩の痛みの他に、私の中で何かが壊れたような感覚がした。

「嫌だ..放してっ..!」

そして私は、咄嗟に二人の手を振り払って、自分の部屋に逃げ込んだ。

ガタンッ!!

自分で閉めたドアを見ていたら、二人の顔が浮かんで涙がこぼれた。

「..うぅっ..うぅ..」

涙がどんどん流れてきて、その夜、私は泣き疲れるまで泣いた。


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朝起きて、私は恐る恐るリビングに下りた。

お母さんたちの姿はなかった。夜遅くに出て行ったのだろう。

ホッとしたような寂しいような、そんな気持ちを覚えながらふと机を見ると、
お母さんからのメモがあった。

<母さんは仕事に戻るわね。
どっちについて行くか、考えておいてください..。>

変わらない文字。一目見ただけでお母さんのだってことが分かる。

それがとても大切に思えた。

けど、変わってしまったこともある。

「"どっちについて行くか"...」

シャワーを浴びながら考えたけれど、答えはでなかった。

そんなモヤモヤした気持ちのせいか、靴が重く感じた。


私は駅に着くと、電車が来るまでの間、手鏡に向かって笑顔を向ける練習をしていた。

それは優に、昨日のことがバレないよう、いつもの笑顔で顔を合わすためだった。

何回も練習してるうちに、電車が着いた。

開いた扉の向こうで私に手を振りながら、優は言った。

「おはよう!」

「おは、よう。」

私がそう言うと、優は笑顔で話し始めた。

「昨日のテレビ、見たか?あれ面白かったな!でさぁ~...」

優が話しているのを聞きながら、私は必死に笑顔を見せ続けた。

だけどその度に、胸の奥が苦しくなっていった。