私の父が、心臓の病で急逝したのは、3年ほど前の事だ。


母は、毎朝小さな仏壇の前に座り、遺影の父に話しかける。


父が畳に投げつけ、粉々に割れてしまった湯呑や急須を、悲しげな目をして片付けた夜ーーー


頻繁な時は月に2,3度もあったのではないかーーー


それは、幻影だったかもしれないと今では思う。


弔うことを糧にして生きていければ、私の余生は充分だーーー



たった何年かで急に小さくなった母の背中は、私にそう告げていた。











少し湿った春の夜。



「あ〜あ!
また他のバイト探さなきゃ。

水村さん、まだ『濱の夢』続けるんだろ?頑張れよ」


吉田貴彦がスポーツバッグを持たない手を頭の後ろに当てて快活に言った。


私は、俯いたまま「うん」と頷いた。


男の子と2人きりで歩くなんて、初めての体験で、歩き方がきごちなくなってしまう。


スタイルが良くて、愛嬌のある可愛い目をしていて。


アイドルグループにいそうな容姿の貴彦。


彼が店を辞める理由は、学校から原付バイクを使うアルバイトを咎められたからだと言う。