私は惣介さんの目に写らないように、惣介さんのいる方向と逆の方へさささと後ずさる。


「わ、私、帰りま」

「ダメですよ。帰しません」

「っ!」


惣介さんの手が私の腕を掴み、私はそれ以上離れられなくなってしまう。

せめて顔は見られないようにしたいと、必死に地面を見つめる。


「……本当に、琴音さんは……ハァ」

「!ご、ごめんなさいっ」

「いや、謝ってほしいわけじゃなくて」

「ごめんなさ……っ!」


謝った途端、惣介さんの手が私の頬を包み込み、そのまま上を向かされてしまった。

私は惣介さんから顔を背けようとするけど。


「や……っ!」

「ダメです。……こんなに冷えて。こんなに泣いて。一人で泣くなって言いましたよね?……って俺のせいなんでしょうけど。悩んで欲しいとは言いましたけど、泣いていいとは言ってません。……もう、許しません」

「っ、ごめ」

「ごめんはいりません。……来てください。そんなに冷えてたら風邪引きますから」

「え」

「……うちに来てください」

「!や、でも……っ」

「ダメです。もう琴音さんの言うことは聞きません」


惣介さんの手が私の頬から離れたと思えば、その大きな手は私の手を包み込んで歩き出す。

私は踏みとどまろうとしたけど、惣介さんの力に勝てるわけはなくて。

……ただついていくしかなかった。