「……」


水曜日の残業時間、私の目に写るのは“柚王化成”の文字。

溝田先輩に渡されたのはうちの会社と柚王化成とのコラボ商品用の資料だった。

……柚王化成は惣介さんの働く会社だ。

まさか会社で惣介さんを思い出してしまうような仕事をするなんて思ってもみなかった。


「……残業の意味、ないよ……」


つい私は机の上に突っ伏してしまって、一人ぽつりと呟く。

惣介さんを忘れるために残業してるのに……。

でも仕事だしちゃんとやらなきゃ。

私はむくりと身体を起こし資料をチェックしていくと、それはすごく魅力的なもので。

うちの会社の製品であるタオルセットと柚王化成の洗剤や柔軟剤とのセット商品をどう売り出すか、というものだ。

いろんなキャッチフレーズが提案されてあって、その中の一つに目が止まる。

“大切な人と同じ香りを纏って”

どきん、と心臓が跳ねた。

今はもう纏っていない香りを思い出したからだ。

そして、惣介さんの笑顔と……会いたいという気持ちも。


「……いつになったら、この気持ちを忘れられるのかな」


誰もいないフロア内に私の小さな声がすっと消えていく。

その疑問には、誰も答えてくれない。