語尾になるにつれ、泣き笑いになる陽都君。

「…陽都君」

そんな陽都君を見ていたら、私はどうしたらいいか分からなくて…

「…お店、出ようか?」

そう声をかけるのが精一杯だった。

「…そうだな」

陽都君はハァッと大きくため息をついて、ゆっくり席を立った。

私は陽都君の様子を確認しながら、ぬいぐるみをそっとスクバにしまう。

そして、おごると言う陽都君を押しきって各自で会計を済ますと、私達はファミレスを出てゆっくり歩き出した。

お互いずっと無言で歩き続け、私は斜め前を歩く陽都君に着いて行った。

やがて、遊具の少ない小さな公園が見えてきた…
と思った瞬間、その公園に入って行った陽都君。

しかし、入口付近で立ち止まってしまった。

「…陽都君?
入るんじゃないの?」

私はスクバを肩にかけ直しながら、後ろから聞いた。

「……無理…なんだ…」

震える声で呟く陽都君。

その背中は微かに震えていて…


もしかして…
…ここって…


「大丈夫だよ…」

私はそう言って、陽都君の右手をギュッと握った。

「…!」

陽都君は、ビックリしたように私を見る。

「…ここ…なんでしょ?
…美優姫さんとケンカしちゃったの…」

「…!!」

「…自然と足はここに向いてたのに、入れないってことは…
…そう、なのかなって…うわ…!?」

突然引き寄せられて、抱き締められた。

「…ごめん、俺…弱くてごめんね…ちゃんと、話すから…
大丈夫…入るから…
どうしても、ここで話したかった…」

そう言って私を強く抱き締める陽都君の腕が、やはり震えている。


陽都君。
…私が、守ってあげたい…
私が傍で支えになりたい…
陽都君の、力になりたい…


私は、陽都君の背中に手を回して抱き締め返した。

「弱くなんかないよ…
陽都君は弱くなんかない…
大丈夫、花恋が傍にいるから…だから、大丈夫だよ…」

「…花恋…
…ありがと」

陽都君はそう呟いて、私から体を離すと、ゆっくりと公園内に目を向けた。

そして1歩1歩、地面を踏みしめるようにして歩く陽都君に続いて、私も奥にあるベンチに座った。

座ってからもしばらく考え込んでいた陽都君は、数分後にようやく口を開いた。

「んっと…
どこまで話したっけな…
…あぁ、そうだ…

そう…
…まぁ…だから俺、あの日からずっと笑ってるんだけど…

…結局さ、美優姫とのケンカの種になったバスケ部も、中学最後の大会目前で退部して…
明成にも、行きたくなくなった…
…バスケのボール見るのも嫌になって。

高校でも、もう絶対バスケには関わらないつもりだった…
でも高校入学してすぐに、涼太が言ってくれたんだよ…

お前が今バスケから背を向けても、今までお前がバスケをやってきた思い出は消えないし、きっと美優姫だって、お前にバスケをやめてほしくないはずだって…

…なにより…

俺はお前ともう一度バスケがしたいって…

そう言ってくれたんだ…

だから俺、もっかいバスケやろうって決めた…

美優姫の為に、笑っていたいと思った…
美優姫の為にも、涼太とバスケをやり直したいと思った…

…ずっと、美優姫が死んでからも…ずっと美優姫が好きだった…

美優姫以外の誰も好きにならないって自信があった…

でも……」

そこまで言った陽都君は、私の顔を見つめて、切なそうに笑った。

しかしすぐに目線を逸らして続けた。

「…気づいたら、俺の心の中は花恋でいっぱいになってた…

最初は何回か話すだけだったのに、花恋が毎朝ロッカーのとこにいるようになってから、必然的に毎日挨拶を交わすようになってさ…

…笑顔が可愛い子だなって…
思ったんだ…

だからアドレス聞かれたとき、すごい嬉しかったんだよ…

花恋と一緒に帰ったのも、ほんとは部活サボるつもりなんかなかった…

だけど体育館行く途中、雷に怯えてる花恋を見かけて…

…傍にいてやりたいって思った…

……きっと俺、分かりやすいのかな…

涼太がすぐに俺の気持ち見抜いて…

昨日の電話、キャッチフォンで切っちゃったやつ…
あれ、涼太なんだ…

お前はどうしたいんだって怒られた…

お前、如月が好きなんだろって…自覚あるくせに、美優姫のことも引きずって…
お前にとって大切なのは何なんだって…

……だから…考えた。

…俺が今好きなのは花恋だよ。

美優姫への気持ちは…
なんだろな…戒めっていうか…後悔っていうか…
罪悪感…かな…

だから…さ…
花恋に全部話したいと思った…その上で、ちゃんと告白したかった…

……けど…先にキス…しちゃったことは…ごめん…

…それに、俺ら付き合ってもないのにこんな重い話…
…えっ!?
花恋…

なんで泣いてんの…?」

陽都君の手が、そっと私の頬に触れる。

その時はじめて、自分が泣いてることに気づいた私。

「え…あ…
…ごめん、なさっ…」


辛いのは私じゃないはずだ…
陽都君の方がよっぽど泣きたいはずなのに…

最悪…

感情移入しすぎちゃった…


これ以上泣いちゃダメだって思うのに、涙は止まらない。

すると、陽都君は私の頭を優しく撫でてくれた。

「…花恋は…
…優しいね」

陽都君がそう呟いたとき、ロコロとバスケットボールが足元に転がってきた。

転がってきた方を見ると、学ランを着た男子がこっちに駆け寄ってくるところだった。

陽都君はバスケットボールを一瞥すると、ゆっくりとボールを拾いあげて…

華麗なフォームで、ボールを投げた。

そのボールは綺麗な弧を描いて…

駆け寄ってくる男子の頭上を通って、遠く離れたバスケットゴールに…

まるで吸い込まれるように…


…入った。


「す…
すっごーいっ、陽都君!!」

私は陽都君の右腕を掴んで、顔を見上げた。

「…!?」

目をぱちくりさせる陽都君。

「すごいね、今の!
入ったね!!
花恋、初めて見たけど陽都君のシュート大好きだ!!」

あまりのすごさに一瞬で涙が止まった。

代わりに、口元がゆるむ。

しかし、笑顔の私とは反対に、陽都君の表情は切なそうだった。

そして…

聞いてしまった…

陽都君が、私を見つめたまま消え入りそうな声で呟いた…


「美優姫…」





…すきです、だいすきです…
あなたのことが…
だいすきです…

例えあなたが…


私に

他の誰かを重ねているんだとしても…―