加々見君と話したあと、私はいつも通りロッカーにいた。

しかし今日は、陽都君を待つためでは無く、本当に美羽を待つ為。

私はケータイを取り出して、時間を確認した。

8時19分。


美羽、あと3分くらいで来るかな…


と、その時。

「花恋、おはよ」

いきなり顔を覗き込まれた。

「は…陽都君…
おはよう」

高鳴る鼓動。

しかし平然を装って微笑んでみた…

が…

「あ、今日は頭ぶつけないんだね?
良かった良かった」

そう言って意地悪く笑う陽都君。

「も、もうっ…!
そんな何回も同じことしないよっ…」

ぷくっと頬を膨らませてみる。

「ははは。
かわいーな、ほっぺプクってしてる」

陽都君は笑いながら、私のほっぺに軽く触れる。

ドキン…

その瞬間、身体中の血液がものすごい早さで回っているような気がした。


…とてもほっぺが熱いです。


「……」

なにも言えずに、ただ陽都君を見つめるしかない私。

さすがにこの空気に耐え兼ねた私は思い当たったことを口にした。

「…そ、そういえばっ…
昨日、電話でいいかけたのって何だったの…?」

すると陽都君はイタズラっぽく笑って、

「花恋って好きな人いるのかな?って」

「っ…」

今にも爆発しそうな勢いで胸が高鳴る…

と、その時だった。

「あーあぁ、なに朝からイチャついてるの、お二人さん」

その声はもちろん美羽。

美羽は、私から陽都君を引き剥がしてため息をついた。

「イチャつきたいのは分かるけど、遅刻する。
今23分、花恋早く行こ」

吐き捨てるようにそう言った美羽。

そしてさっさと教室の方に歩いていってしまった。

「…いきなりなんだ?」

陽都君はきょとんとして、立ち尽くしてしまっている。

「えっと…
機嫌…悪いのかな?
いつもはあんな感じじゃないから…」

私は苦笑いした。

だけど、美羽があそこまであからさまに不機嫌なのは珍しい。


何かあったのかな…


「あぁ、負のオーラすごかったもんな…
まぁいーや。
早く教室行かないとHR間に合わ…」

キーンコーンカーンコーン…

陽都君が言いかけたとき、無情にもチャイムが鳴り響いた。

「…あ」

「…あー」

同時に声をあげた私と陽都君。

お互い顔を見合わせた。

「間に合わなかったね?」

陽都君は困ったように笑う。

「…だね、早く行こっか」

私も苦笑いして、教室の方に歩き出した。

その時。

「花恋」

陽都君に手首を掴まれて止められた。

「…?」


え、なんだろ?


振り向くと、陽都君がいたずらっ子みたいな笑みを浮かべて言った。

「サボっちゃおっか、今日」


……え?


「どうせHR間に合わないんだしさ」


………え?


「…花恋?」

思わずフリーズしてしまった私を、きょとんとした顔で見つめてくる陽都君。

「…え…
だ、だめだよ…?
サボりなんて、先生にバレたら怒られちゃう…」

私は、慌てて両手をブンブン振って拒否する。

しかし私の言葉にプッと吹き出した陽都君は、

「花恋マジメっ子だねー
だいじょぶだよ、涼太と吉澤が俺らのこと言わなきゃ!
そしたらサボりじゃなくて単純に欠席だからさ?
ね、だから楽しいとこ、行こ」

無邪気に笑って、私の手首を引っ張っていった。

「えっ…
ちょっ…陽都君!?」


…如月花恋。
どうやら本日、初のおサボり決定です。