「うわ、すげー
カスタードクリームにつぶあんにチョコにチーズクリーム…」

他愛のない話をしながら、駅前の鯛焼き屋まで歩いてきた私たち。

そして、味のバリエーションの多さに目をぱちくりさせている陽都君。

「鯛焼きはもちろんあんこでしょ!!
それ以外ありえないわ」

隣には、目をキラキラさせる美羽…

「………如月、何にする?」

そんな2人を一瞥して、冷静に聞いてくる加々見君。

「んー…
チョコ…かな?
加々見君は?」

私は苦笑いで答えながら、スクバから財布を出した。

「…俺は…
…チーズクリームが気になるな」

加々見君も財布を取り出す。

ふっと美羽を見ると、すでに鯛焼きを手にしている。

…いつのまに買ったんだか。

私はまたもや苦笑い。

「あ、陽都君は?
決まった?」

財布から200円を出しながら聞くと、陽都君はかなり真剣に悩んでいた。

「…チョコかクリームで悩んでるんだよね」

「じゃあ、花恋チョコだから、陽都君はクリームにしたら?
したら、半分こできるじゃん?」

ね?と笑いかけると、心なしか頬を赤らめる陽都君。

「…?」

「…じゃあ、そうしよっかな」

陽都君はうなずいて、ズボンの後ろポケットから財布を出した。

そして陽都君と一緒に並び、先に買った私は、チョコ味の鯛焼きを半分にしようと試みた。

だけど、頑張れば頑張るほど鯛焼きは無惨な姿に変わり…

「はははっ、花恋へたすぎ!!
割れないならそのまま食べちゃえばいーじゃん」

隣で見ていた陽都君は笑いながら、私の持つチョコ鯛焼きにかぶりついた。

「…!!」

私はフリーズ。


…こ、これっ…
このあと花恋も食べるんだよね…!?
世の中では間接チューに値するのではっ…!?


「…///」

顔が熱くなるのが分かる。

だけどテンパってる私とは裏腹に、普通に飲み込んだ陽都君は

「チョコうまいね。
カスタードクリームもなかなかだよ、はい」

と笑って、食べかけのクリーム鯛焼きを差し出してきた。

「…!」


あ…あぁ。
…陽都君のこの笑顔、反則だ…


私はうなずくと、オズオズと陽都君の差し出すクリーム鯛焼きをかじる。

「…どう?
おいし?」

微笑みながら、私の顔を除き込む陽都君。

「…うん、おいしい…」

クリーム鯛焼きを飲み込んだ私は、うなずいて自分のチョコ鯛焼きをかじった。


…ほんとはドキドキしちゃって、味なんか分からなかったけど…


ふっと加々見君と美羽に目をやると、2人はすでに食べ終えていて、少し離れた場所で楽しそうに話している。

「……」

私はその様子を見ながら、黙々と鯛焼きを食べていた。

そして、最後の一口まで鯛焼きが減ったとき、陽都君に右腕をつかまれた。

「え…」

ビックリして陽都君を見上げると、真面目な顔つきの陽都君と視線が合う。

「…なあに?」

その表情に戸惑って聞くと、陽都君は私の腕をつかむ手に力を込めた。

「……待っててくれる?」

そして、消え入りそうな声で聞いてきた陽都君。

「…?
何を?」

なんのことか分からずに聞き返すと、ゆっくり陽都君の顔が近づいてきて…

「…?
はるとく……」

…一瞬触れるだけのキスをされた。


「…え!?
なっ…なっ…!?」


…なんで!?


その一言がことばにならず、ただひたすらどもっていると、陽都君は優しく微笑んで…


「…俺、好きだから…
素の花恋が、花恋本人が…
好きなんだよ。

今さらかもしれないけど…

だから…
気持ちの整理つくまで、俺のこと待っててくれる…?」


「っ…」

陽都君のその言葉に、視界が歪む。

私は精一杯の笑顔でコクリとうなずいた。

「待ってるよ…
ずっと…陽都君のこと待ってるよ…」



「……ありがとう」


陽都君は微笑んで、私の頭を優しく撫でた。

私も、溢れる涙を手の甲で拭いながら微笑んだ。




…陽都君。
だいすきだよ…

だから花恋は

ずっと笑うよ…

だいすきな陽都君の為に

ずっと傍で笑ってたいんだ…




「だいすきだよ…陽都君…」


「…へへ、俺も!」





END