…あれから1ヶ月。

私と陽都君は、今までと何ら変わらず話している。

メールもするし、教科書の貸し借りもするように。

あの日、ゲームセンターで陽都君がとってくれたウサギのぬいぐるみは、毎晩一緒に寝ている。

…まぁ、そんなこと恥ずかしくて陽都君には言えないけど。



「花恋!
今日陸上部無いからさ、久しぶりに一緒に帰らない?」

休み時間、自席でケータイをいじってると美羽に声をかけられた。

「うん、帰る!!」

笑ってうなずく私。


美羽と一緒に帰るなんて、何ヵ月ぶりだろう…


「あ、てか花恋知ってる?
駅前の鯛焼き屋!!
めっちゃおいしいって先輩が言ってたんだよね」

「そうなの?
今日行ってみる?」

「もちろん!!」

満面の笑みでうなずく美羽。

「美羽、鯛焼き好きだもんね」

つられて私も笑顔になった、その時。

「花恋!」

廊下から、陽都君に名前を呼ばれた。

私はあわてて席を立つと、廊下に出た。

「どうしたの?」

「あのさ?
今日バスケ部ねーんだよ。
だから、涼太と一緒に駅前の鯛焼き屋行くかって話してんだけど…
めっちゃ美味いらしいんだよ、花恋も行く?」

無邪気に笑いながら誘ってくれる陽都君。


…お、思わぬお誘いっ…

でも美羽…

…どうせ行き先一緒だし、4人でも…


「あの…
それね、今美羽とも話して…」

陽都君に言いかけたその時、後ろから誰かにギュウっと抱きつかれた。

「あたしは別に、4人でもいーよ?
東達が良いんならね」

「美羽!」

どうやら聞こえていたらしい。

「え?
あー、もしかして花恋と吉澤も鯛焼き屋行く予定だった?
んじゃ一緒に行くか」

「そうね、じゃあ加々見に言っておいて」

「おっけー。
んじゃ放課後な」

美羽と話した陽都君は、私に手を振って教室に戻ってしまった。

「…美羽、ほんとに4人で良かったの?

加々見君と話したことないでしょう」

私は、未だにくっついている美羽をの腕をそっと離した。

すると、美羽はフフっと微笑んで私にデコピンをした。

「いーんだよ。
だってそしたら花恋、東といっぱい話せるでしょ。

それにあたし、部活終わったあととかに、加々見と何回か話してるから大丈夫」

「…美羽。
…ありがとう」

ジンジンと地味に痛むおでこを押さえながら言った私。

どういたしまして、と笑った美羽は、自分の席に着いてしまった。

美羽には、陽都君に告白されたけどダメだった…としか言ってない。

でも勘の鋭い美羽のことだから、単にフラれた訳じゃないことくらいはきっと気づいてる。

それでも何も聞かずに、さりげなく協力してくれるのは美羽の優しさ。

「…ありがと」

私はそう呟いて、席に戻った。



―放課後―

「花恋っ、吉澤!」

帰りのHR終了後、すでに廊下で待っててくれた陽都君に呼ばれた。

「陽都君のクラス、HR終わるの早いんだね」

スクバを肩にかけながら、廊下に出る私。

加々見君は、陽都君の隣でスマホをいじってる。

そして私に気づくと、フッと口角を上げた。

「おっす」

「…!
…えと…
こ、こんにちは…」

今は夕方。

おはようって返すのは違うかなって思った私は、思考回路をフル回転させて何とか「こんにちは」の一言を引っ張り出した。

しかし、加々見君は何故か笑いながら

「んだよ、こんにちはって。
なんで敬語?」

陽都君もアハハと笑いながら、

「花恋はほら、天然入ってるからさ」

そして加々見君と陽都君は、顔を見合わせて爆笑。

「…?」

なんで笑われるのかが分からず、首を傾げていると、後ろから美羽に肩を叩かれた。

「ごめんねー
お待たせ…って…
あんたら何笑ってんの?」

笑っている加々見君と陽都君を見て、きょとんとする美羽。

「いやっ…
なんでもねーよ」

「そうそう、それより早く行かね?
腹減ったわ」

加々見君と陽都君はそう言うと、先に歩き出してしまった。

「あたし達も行こっか、花恋」

微笑む美羽に促されて、私達も下駄箱に向かって歩く。

私は、加々見君と楽しそうに話して笑いあっている陽都君の背中を見つめながら呟いた。


「…だいすき」



「ん?
なんか言った?」

私の呟きに首を傾げる美羽。

私は微笑んで言った。

「…ううん、なんでもないよ」