「亡霊とは失礼な。まあ、似たようなものか。俺は人間ではないからな」
妖しく微笑みつつ、シャールカーンは男を廊下の奥にある大広間へいざなった。
「お前は品はないが、俺の大切な愛しい妻を我がもとに連れてきた人間だ。礼もかねて宴を開く。少し付き合え」
それから腕の中にいる未だ口を封じられ、縛られたままのサフィーアを眺めて言った。
「おや、お姫様はまた口がきけないのか。つくづく俺はお前の声を聞けない運命にあるらしいな。まあ、お前の愛らしい声を堪能するお楽しみは後々にとっておくか」
(シャール…シャール!!)
サフィーアの青い瞳が涙で潤む。
「泣くな。俺も嬉しい」
何百年待ったことか。
まだ夢のようで現実味がまるでない。
再会したら真っ先に何を言おうかあれこれ考えていたというのに、いざこうして会うと考えていた言葉は全てどこかに吹っ飛んでしまった。
サフィーアの目尻にそっとキスをすると、シャールカーンはパチンと指を鳴らす。
すると、一瞬で大広間に豪勢な料理が現れた。



