「・・・っ!」




突然目の前が湊で一杯になった。

長い睫毛が、すぐ近くにある。

声にならない声が漏れる。

柔らかい感覚に驚いて、強く目を瞑る。




両手を湊に掴まれて動けない。

一瞬のはずなのに、とても長い間に思えた。




そっと顔を離していく湊。

薄く目を開きながら、私の顔から遠ざかる。


私は顔が真っ赤になってしまったに違いない。

心臓の音がやけに五月蝿い。



掴まれていた手の力は緩んだけれど、離してくれる気配は微塵もない。

私はどうしていいのかわからずに、下を向いてしまった。


突然のファーストキスに頭がついていかない。




「・・・時雨」




名前を呼ばれただけなのに、私はどんどん恥ずかしくなっていった。

囁く湊の声は、初めて聴く声のようだった。




低く胸の中に直接響く声。

甘い響き。

私の知らない、大人の湊。




その声に呼ばれて顔を上げる。

見上げた先に笑顔の湊がいた。

満足気に笑ったその顔が、私の姿を見つめている。



湊の左手が私の右頬に触れる。

びくり、とする私を見てふふふ、と湊が笑った。


もう片方の頬も支えられて、湊の真正面に連れて行かれる。




長い睫毛が揺れる目を静かに伏せながら、湊が近づく。

どうしていいかわからないけれど、それと同じように静かに目を閉じる。




息がかかる。

両頬の手に力がこもる。

優しく触れた唇を次第に深く押し付けられる。


二度目のキスの時、心の中に声が聴こえた。




湊の声で『愛してる』と。