行く当てもなくただ、走って、走って、走って。

商店街まで来て、足を止めた。


 どんなに走っても走り足りないような感覚。イライラして、体を動かしたくて、またイライラして。どこかのネジが一本抜け落ちたみたいだ。

 商店街の入り口の壁に背中を付けて、座り込んだ。

 こんな時間に学生の姿なんか当たり前にないのに、なぜかオレは、祐也が来てくれるのを待ってようと思った。来るはずなんか、ないのに。


「おい、シン!」


 オレを呼ぶ声に過敏に反応して、でも、顔を向けたら、そこにいたのはカズだった。

「お前、どうしたん、だよ。あんなに怒ること、ないだろ、」

 息を切らしながらオレの側まで来て、カズも壁に寄りかかった。

 でも、オレは何も答えたくなかった。
 だから、黙った。

「おい、聞いてるのかよ、シン。何があったんだよ、詳しく言ってくれなきゃわかんないじゃんかよ」


 カズの声は。


「シンってば、おい。相沢まだ、教室で泣いてたぞ」



 今オレの聞きたい声じゃない。



 何も言わずにオレは立ち上がって、商店街を家に向かって歩いた。

「どこ行くんだよ、シン!」

「うるさいっ!」



 祐也じゃなきゃ、何もいらないんだ。



 祐也を傷つけた相沢なんか、死んでも許してやるもんか。

 その相沢のこと好きで、相沢しか見えてないようなカズなんか、どうでもいい。



 ただ、祐也に会いたい。



 他には何もいらないのに、どうしてそれだけが、叶わないんだろう。


 家に着く頃、カズは追いかけて来てはいなかった。

ふっとそこで、我に帰って、カズに悪いことをしたと思った。

 泣いてる相沢を放ってまでオレを追いかけて来てくれたカズ。

そのカズをいとも簡単に壊した、オレ。



 でも、わからないんだ。



 こんなに大事な親友傷つけてしまったって、自分でちゃんとわかっているのに。

 それでも頭に祐也しかいない自分が、どうしても、わからないんだー…。