眩しい木漏れ日の差す土手を、菘は歩いていた。natureになってから暫くは遺伝子と細胞のバランスを調節するために紫外線や余分な刺激を避けていたが、このところ漸く外に出ることが出来るようになった。


「お姉……zephyrは、いつになったらAustinとしての記憶が戻るのかな」


小さく呟き、肩を落とす。姉である薺、Austinとしての《セット》であるzephyrがnatureになり、菘(quote)と薺(zephyr)は『姉妹』として生活していた。


元々彼女達Austinはこの惑星《astral》の住民ではない。Austinという種族は独自の生態系を築き、独自の文化で成長を遂げてきた。


そのことに目をつけた惑星《astral》の人間達はAustinの中でも最も優秀な遺伝子であるEX0056-junk、EX0057-zephyr、EX0058-quoteを《閉ざされた聖域》という人工的な架空世界で監視し始めた。


「…………、……junkは、どうしてるだろう……」


惑星《astral》の人間達は、まず彼女達の情緒指数に目を向けた。Austinは元々情緒指数が低く、何があっても荒れることはないが、EX0058-quoteだけは情緒指数が高く、EX0057-zephyrに強く依存していた。


zephyrがnatureに『成った』際、彼女達の情緒指数には多少の変動があったが、最もその変動が顕著に現れたのはquoteだった。


「……だめだ、良くないことばかり考えちゃう。……ゼフ……薺はきっと大丈夫、junkだって、きっと何処かで生きている」


菘は自分に言い聞かせるように呟くと、今歩いていた道を振り返り家路を急いだ。