「おはよう、菘」


菘が目覚めると、いつも彼女より遅く起きる姉がそこいた。菘はゆっくり起き上がり薺を見詰める。


「早いね、お姉ちゃん」


なにか、少し懐かしいような夢を視たが思い出せない。


「たまにはあんたより早起きしようかな、って思っただけ」


なんでもないように告げる姉を見て、彼女は嘆息する。薺はそんな菘の様子には気付かず朝食だと言って部屋を出た。


「……やっぱり、記憶はないんだよね」


視た夢を思い出した菘はひとり呟く。その声は何処か寂しげでもあり、何処か安堵しているようでもあった。