それは、突然だった。彼女は僕を揺り起こした。

「お願い、答えて。アツキが崖から落ちたのよ」

「落ち着いて」

「あなたが手を差し伸べてくれていたら、もしかしたら……」

「サキちゃん。それは違う。僕は彼を見守っていたのだから」

「助かったかもしれなかったのに、どうにかなったかもしれないのに……。どうして助けてくれなかったの? なぜ、助けなかったの?」

「言ったろう? 僕は見守っていたんだ。広く大きな心で、彼を包み込んで……」

「何もしなかったのね? 何もしなかったんでしょ? 見守るっていうのは、ただ見届けるってことじゃないハズよ!」

「僕はそうやって、いつも彼から離れず、ずっと見守ってきた。彼もそれを望んでいた」

「ウソよ」

「彼が君に、ハッキリとそう言ったのかい?」

「……そうじゃないけど」

「じゃあ、どうなんだ?」

「あたし……」

「違うんだろう?」

「でも……救えたかもしれない彼を、救わなかった。あなたの言う見守るって、自分の身を守ることじゃない!」

「それは、君の‘答え’だ。僕のとは違う」

「えっ?」

「君は──あの場にいなかった」

「……」

「それが僕の‘答え’なんだ」

「──ねぇ、アツキとケンカして、あたしが来なかったことを責めてるの?」

「君が僕を責めているんだ。でも、僕は何とも思わないから、安心して」

「あなたのことばかり言うから……。だから、ケンカになったのよ」

「分かってる」

「分かってる? なら……」

「後悔してるんだろう? 今はとても、君は後悔している」

「うん」

「気持ちの整理が付いたら、君も、あの崖に行くがいい。アツキの為に、一緒に花を贈ろう」

「あなたと行くの?」

「僕がいなければ、君がどうなってしまうか分からないからね」

「……ありがとう。でも大丈夫。心配しないで。バカなマネはしないから。一人で行けるから」

「アツキはもう戻っては来ない。彼の心は死んでしまった。でも……」

「でも?」

「これからは僕が、君を見守る。君が望むように、彼よりもずっと広く、大きな心で……」

 言い終わる前に、彼女は消えた。こうして僕は、また一人、葬った。