校舎の屋上で空を見ながら、学生服を着た三人の高校生が話をしている。

 一人は両腕を頭の後ろに回して寝っ転がり、一人は猫背にあぐら、唯一の女子は下着が見えないようにガードしつつ、三角座りだ。湿ったような色が固着したコンクリートとの間には、柔らかいハンカチを敷いている。

「ねぇ、このどこまでも青い空を眺めていると、日本は平和だなって思うの」

 カタカナで言えばマシになるが、それでもいわゆるおかっぱ頭の喜久子が、話を切り出した。

「平和? そんなことないよ。期末テストが迫ってるし、勉強しなきゃ」

 琉太が猫背のまま反応する。

「やれやれって感じ。溜め息が出るわ」

「どういう意味だよ?」

「テストだどうの言っている間にも、世界の何処かで戦争をやってるし、小さな子供たちが犠牲になっている。アンタには彼等の悲鳴が聞こえないの?」

 琉太が不服そうにあぐらを外し、友幸に目をやる。

「そうかもしれないけどさ……。友幸、お前はどう思うよ。僕らは僕らの世界で生きているだけで、非難されるのか?」

「非難じゃないわ」

 喜久子が割って入る。

「ただ、呑気に空を眺めていられるのも、この国が守られているってこと。大国の軍事力を背景にした幻想……」

「核兵器の話? もしかして喜久子は、日本も核を持つべきだという意見なの?」

「核武装、すべきよ」


 ──友幸は空を眺めていた。透き通った核弾頭が瞳の表面で交差する。

「キクちゃん。それは違うよ」

 友幸がゆっくりと体を起こす。

「どう違うのよ?」

「短絡的だよ」

「じゃあ、どうやって国を守るの? 皆で仲良くお手々繋いで、本気で解決すると思ってるの?」

「力のバランスだけで物事を捉えたら、見えるものも見えなくなる」

「抽象的な言い回しね。具体的に、何も言えないんじゃない」

 突然、チャイムの音が鳴り響く。三人が同じように息を吸う空間だ。

「時間切れ……ね」

 琉太も友幸も黙っていた。青かった空は、いつの間にか黒い雲に覆われ、ぽつりぽつりと雨粒が落ちる。

 漸く友幸が立ち上がる。引き留めるように喜久子の左肩に手を置いた。

「傘が要るわ」

 喜久子はそう呟き、友幸の手を祓った。