「警戒心の強いブスは、救いようがない」

 意中の彼がそう言っているのを、カフェテラスの隅で聞いた。

 その言葉に敏感に反応したのは、きっと私ぐらいではないだろうか。

 私は一人で……、彼は仲間三人と共にランチを取っている。

 彼の仲間の一人が話す。

「それは言えるな。綺麗でガードが堅いのはまだ分かるが、ブスなら理解し難い。男が寄って来ないだろうに」

 カチン、ときた。
 私は決して綺麗ではない。外見を言われればブスになると思うのだが、その言い様は看過出来ない。

 モヤモヤしながら、野菜サンドをかじる。パン粉がぽろぽろと皿と自分の隙間に落ちる。

 顔に自信がないから、太らないように気を付けている。母からは清潔感で補えとの有難いアドバイスも貰っている。


 紙パックのコーヒー牛乳をストローで吸おうとして口を近付けた。横着が祟り、くわえ損ねてタプンと倒れた。

『やれやれ……』

 運よく溢れなかった。
 食べ掛けのサンドイッチを皿に戻し、手に付いたパン粉を払う。改めてコーヒー牛乳に手を伸ばすと、今度は掴み過ぎてストローから中身がぴゅうーッと噴き出した。

「わわ、あっあ〜」

 何が起こったのかを整理する間もなく、ただ気が動転する。事態は悪化し、飛び出したコーヒー牛乳が小便のような放物線を描く。

「おわ、ウヒョオオ〜ぉ!」

 何ておバカな奇声を発してしまったのだろう。案の定、店内は静まり返り、皆の視線が注がれる。勿論、彼も例外ではなかった。

 しかし学生たちは、すぐさま元のざわめきを取り戻した。彼らは貴重な学生生活を謳歌しているのだ。


「お前の言う通り、そうなんだ。だけどな……」

 彼は話の続きをする。

「俺はそういうヤツほど、信頼できると思っている」

 そう言い切った彼を囲む三人が、それぞれ顔を見合わせる。

 気のせいだろうか。
 彼は私を念頭に話していないだろうか?

「だってそうだろ? よく考えてみろよ」

 彼は身を乗り出し熱心に語る。他の三人も周りで楽しく会話をしている女子大生をつぶさに眺め「それもそうだな……」と、頷く。

 何の根拠もなく、近くでニヤニヤと聴いていた私は、こっそりとただ赤面するしかなかった。