安崎が運転する車は、人気のない路地裏ばかりを通っていった。
車一台分がやっと通れるような細さの道を、我が物顔で通り抜けていく。
わたしは黙って窓の外を見つめていた。
左腕は未だに鮫島に掴まれている。
逃げるとでも思っているのだろうか。
こんな狭い道を時速50キロで走る車から、飛び降りて逃げようなんて思わない。
「あの」
「ん?」
「腕、痛いねんけど」
「ああ……こっちのほうがいい?」
そう言って鮫島が懐から取り出したのは、手錠だった。
どう見ても本物っぽい。
ジャラジャラと金属がぶつかり合う音が不愉快で、わたしは黙り込んだ。
鮫島がそれを「NO」と捉えたか、にっこりと笑みを顔に貼り付けて、手錠を仕舞う。
「もうすぐやで」
「ヤス、裏からまわれ」
「へーい」
視線を前に向ける。
そこには、大豪邸のお屋敷があった。
瓦作りの立派な屋根、坪はどれほどだろう。
とにかく広そうだ。
チラ、と見えた表札には『大柴』と書かれている。
うちの担任と同じ名字だ。
この地域ではそれほど珍しくないのかもしれない。
車はぐるっと屋敷のまわりをまわって、裏の駐車場に車を停めた。
