自分だけが特別だと、一回でも錯覚してしまったわたしを殴りたい。
瞳がかち合った、あのときの目が、いっそわたしだけのものだったら。
なんて、思い始めた脳みそをえぐり出したい。
いつからだろう。
いつから、大柴のことをそんな目で見ていたのだろう。
『もちろん、タイプって小西さんのことやけどな』
ふと、先日の言葉が頭の中をよぎる。
彼がわたしに触れてから、馬鹿の一つ覚えみたいに話しかけてくるようになった。
馬鹿が続けば良かったのに。
そうしたら、いつものように「柴くん!」と、怒りを顕にして、ふざけの延長線上で絡めたのに。
大柴に触れられることが、こんなにも嬉しいなんて。
胸が痛くなるぐらい、ときめくなんて。
肋骨が軋むぐらい、傷つくなんて。
それでもどうか、これがまだ錯覚でありますようにと。
「あほらし」
赤くなった顔を隠しながら、ひたすら走った。
どうか、大柴の目が、手が、みんなのものでありますように。
わたしだけのものには、なりませんように。
「ええ加減、目ぇ覚まさな」
最近、ちょっと大柴と接触する機会が増えただけだ。
それだけのことだ。
それを勘違いしてはいけない。
そうやって何度も自分に言い聞かせて、いつの間にか消えた太陽の行方を探すこともしないで、降り始めた雨の下、ただがむしゃらに走り続けた。
