大柴はわたしをきちんと立たせると、あの笑顔を張り付けて彼女に近づいていく。
「先生が生徒に手ぇ出すようなやつやと思ってんの?」
「思われてもおかしないことしとったやん」
「否めない」
大柴はそう言って女子生徒の肩に腕をまわす。
ぐっと引き寄せて耳元で何かを囁くと、彼女は顔を赤らめてこくこくと必死に頷いていた。
やがて、話はついたのか、パタパタとスリッパを鳴らして去っていく。
その光景に、さっきまでの暑さがスーッとなくなっていくのがわかった。
さっきまで喚いていた心臓がおとなしくなって、逆に働きすぎたのか痛みすら感じる。
ずきずき、と、肋骨が刺激されて悲鳴をあげた。
「……わたしだけやないんや」
「なんか言うた?」
「ううん。じゃあね、柴くん」
「……うん、夜は気いつけや。また行くから」
「こんでええ」
眼鏡の奥を見てはだめだ。
本能が危険信号を出す。
わたしは大柴に背を向けると、廊下を走って彼から距離を取った。
いつキスされてもおかしくなかった。
それぐらいに接近していたし、あの女子生徒が来なければきっと。
でも、どうしてそんなことをしたんだろう。
大柴は、誰にでも平等に、生徒と接する人だと思っていた。
本人は無自覚だろうが、女子の扱いには慣れているし、男子からの信頼も厚い。
大柴の中で、お気に入りは存在せず、皆等しく同じなのだ。
