「……ないない」
「なにが?」
今、わたしは何を考えた?
大柴にこれ以上構ってもらって、そうしたら今度はきっと、マオが嫉妬する。
そもそも、さっきから教室の脇を通る女子たちの視線が痛いのに。
「柴くん」
「ん?」
「もうそろそろ帰るわ。バイトあるん忘れとった」
「ほんまか」
シュン、とあからさまに目尻を下げる大男に思わず胸がキュンとときめく。
なんだこの可愛い生き物は。
尚も髪から離れようとしない、大柴のゴツゴツした手を包み込むように、それを重ねた。
ひとつひとつ、丁寧に指をはずしていって、ぱらり、と、彼に捕まっていた髪の毛が重力に従って元に戻ってくる。
それを残念そうに見つめる大柴の視線が、ふとわたしの目を捉える。
カチリ、と合わさったそれはまるでパズルピースのようで、型が合ってしまったばっかりに、逃げることも逸らすこともできずにただ、眼鏡の奥に光る暗闇を見つめた。
ぎゅう。
大柴がわたしの手を握って、引き寄せた。
自然と密着する身体は、少し仰け反って、彼の腕が腰を支えてバランスを保つ。
ふわりとアッシュベージュの髪の毛が空中をさまよった。
それでも、雲に隠れることのない太陽が、容赦なくふたりを包み込む。
暑い。
ドクドクと心臓が煩くわめく。
50m走ったあとみたいに、心臓が血の巡りを良くしようと忙しなく働いている。
吸い込まれそうだ。
暗闇に浮かぶブラックホールに、今にも呑み込まれそうだった。
気が付けば、大柴の顔がすぐそこにあった。
吐息が互いの唇を刺激する。むず痒くて、ぎゅっと目を閉じた。
「柴く……」
「ちょっと、何やってんの柴くん!?」
女子生徒の金切り声に、ビクッと身体を強ばらせる。
慌てて目を開けると、教室の入口で他クラスの生徒が身を乗り出していた。
大柴は口だけで「大丈夫」と囁く。
彼はなんでもないようにわたしから視線を外すと、女子生徒を冷たい目で見据えた。
「なにって、ダンスの練習やで。よくあるやん、男女ペアなって踊るやつ」
「なんのためのダンスよ!」
