「水川さんは松若さんのどこに惹かれたのですか」

 陶子がたずねる。

「俺が史朗さんのどこが好きかって? そりゃあ全部に決まってんじゃん!」

 水川がのろけを言う。

「というのは冗談だけどさ。もっと具体的に言うと温かいとこかなぁ。心もだし、体もね」

「おいおい、この場所であまり変なことを言うなよ」

 そう諭す松若の顔も笑っている。

「沓掛さんには恋人はいないの? 史朗さんはあんたを自由にしてくれると思うんだけどな」

 今度は水川がたずねる。彼は陶子のことを名前で呼んでくれた。

「さあ、どうでしょうね」

 陶子は肩をすくめる。

「沓掛さんもいい人見つけなよ」

「ええ、そうします」

「恋人がいるとさぁ。こーんなに楽しいこともできるぜ」

 やんちゃ坊主に抱き付かれそうになって松若が焦っている。

 幸せそうな二人の様子を見て、こんな人たちと家族になるのも悪くはないと陶子は思った。この二人と一緒にいれば、いつまでも平和で穏やかな人生が送れるような気がした。

 世間ではゲイのカップルにくっ付いている女友達のことを「おこげ」というらしいが、陶子なら良いおこげになれそうである。目の前の皿に盛ってあるあんかけおこげのように、熱々のあんを引き立てるクリスピーなおこげになれるだろう。