彼女はその細い指の上に、クシャクシャに折り目の付いたブランド物のハンカチを、きれいに畳んで載せている。それは見た優二は急に恥ずかしくなって、あやふやな口調で礼を述べ、ひったくるように自分のハンカチを彼女の手のひらから奪った。自分でもそんなリアクションを恥じた彼は、もう一度礼を言って笑顔を作ってみせた。そして、傍らで友人が凝視しているのも構わず、お礼をしたいからと彼女の名前をたずねた。ここでチャンスを逃したら男が廃るというものだ。ついさっきまで投げやりな気持ちでいたくせに、優二は積極的な姿勢に転じた。

 彼女は「いいえ、この程度のことでいいですよ」と遠慮する。優二は彼女に「つまりその……これからもあなたとお会いできればと思って訊いているんですよ」と言った。「もちろん、あなたさえ良ければの話ですけど」と付け加えた。

 すると彼女は花のかんばせをほころばせ「喜んで」と答える。信じられないくらいスムーズな展開だ。横にいた友人はいつの間にか、優二に無言の合図を送りながらその場を離れていく。なかなか気が利く友人である。優二は笑顔を浮かべて自分の名を名乗った。

 彼女の方は谷野菫と名乗った。谷間の百合ではなくスミレだったが、優二にとってそんなことは大した違いではなかった。スミレも百合もきれいな花に違いない。


 その後二人は度々デートを重ね、わずか二ヶ月という交際期間を経てプロポーズに至ったというわけだ。