暑いし押されるし、浴衣着崩れしそうになりながら少しずつ女子の群れで前進している神内永遠子です。




とりあえず近づいて分かった事。


女の子達の熱気はほんとに凄かったって事。




私が梓に押されて割り込んだ時なんて、


「何よ、こいつ!」


とばかりに外に押し出されそうになったからね。






あともう一つ分かった事。



「名前教えて下さい!」

「私達と一緒に回りませんか?!」



これは、ナンパだ。




いや、ふつーはさ、ナンパってのは私の乏しい
恋愛知識によると、ひっそりと2人組が2人組に話しかけたりするじゃない?



でも……これは、なんだ。


この人の数はなんなんだ!



いやもーね、近所迷惑よ、二人とも。


フランクフルト屋さんの人も苦笑いよ。





大勢いるところでは、一度中に入っちゃえばどんどん前に押されていくもの。


私もぐいぐいと押されて前に出ていく。




そろそろ、二人の姿が見えるかな?と思ってた時だった。




グイッと腕を掴まれて二人の方向とは逆方向に引っ張られる。




『え、ちょっ、やめて下さい!』




抵抗するけどその人は私の声なんて聞いてないかのようにどんどんと手を引っ張って、

ついに女子達の群れの外、つまり……スタート地点に戻ってきちゃった訳で。





『折角近づけたのに……』







「永遠子ちゃん、着崩れしてる。」


「フランクフルト欲しいなら向こうの店で買えばいーじゃん。永遠子サン。」





聞き覚えのある声。



はっと視線を移すといたのは……


『潤君!美鞠ちゃん!』



金魚柄の浴衣にツインテールな美鞠ちゃんと、甚平が涼やかな潤君でした。





潤君は美鞠ちゃんの背中をとん、と叩く。



「ほら、みまたん、言いたい事あるんでしょ。」



おずおずと前に出てきた美鞠ちゃん。




私の浴衣の裾をきゅっと掴んで上目使いとか最早天使だよね。





「永遠子ちゃん……ありがとな、助けてくれて。

それから、志紀様が明るくなった。前向きになった。永遠子ちゃんのお陰だ。ありがとう。」



『美鞠ちゃん……。』



とててて、と潤君の所に戻る美鞠ちゃん。



「みまたん、いい子いい子。」


「触んじゃねー、潤。」





ところで……


『なんでこんな所に?』



素朴な疑問。

普段は黒羽屋のお屋敷にすんでるじゃん。


遠いのに……



あ、そっか、普通にお祭りに遊びに……



「いちゃ……だめ?」


『うぎゃあ!』




耳元で囁く声に驚く。


「永遠子……浴衣、着崩れてるよ?汗もかいてるし……白い浴衣、持ってるけど着替えたら……?」




『敵ボスがこんなにしょっちゅう顔出すなぁ!』




ぬっと登場したのは、敵様何様志紀様でした。