「あの、その……わたし、好きな人がいるのに、冬弥さんといるとドキドキするんです……」
「え?冬弥?」


千夏さんは、かなり驚いていた。でもすぐに、笑顔になった。


「だから冬弥、今日優しい顔してたのねぇ」
「えっ?」


今度はわたしが驚く番だった。優しい顔してた…?わたしには、よく分からなかったけど…。やっぱり母親には分かっちゃうのかな?


「冬弥に、なにもされなかった?」
「あっ、えと、」


気を抜いていたからか、千夏さんの質問に、思い切りどもると、深いため息を吐いた千夏さん…。


「ホント、ダメな息子ね。ちゃんと教育し直さないと」
「いや、千夏さん!」
「なぁに?」
「その…ちゅ、チューだけだから……」


あぁぁ!恥ずかしすぎる!こんなのホントのママには言えないよ…。だけど、千夏さんは真剣な顔のままだった。


「愛梨ちゃん」
「は、はいっ」
「それでもね、付き合ってもないのに、そういうことするのはダメ」


千夏さんは、お母さんの顔をしていたと思う。わたしをホントの娘のように、思って言ってくれた言葉なんだと思った。