拓は何も言わずただあたしを抱き締めた。 拓と居ると落ち着くのに、 すごく、すごく胸が苦しい。 感情が渦巻いて訳がわからなくなる。 「俺、ずるいよな。 真柚が弱ってるところに漬込んで」 「…うん」 「でも駄目だ。やっぱり。 あいつかより俺を選んで欲しいって 思ってしまう」 「うん」 「最低だな」 ぽつりぽつりと話す拓の声が 麻薬のように頭に響く。 抱き締められているから表情は見えないけど 辛そうな声に苦しくなる。 どうして、あたし… どうして佐野有なんだろう。