少し息を呑む音がして、黙り込む興絽さん。



「だって、こんなタイミングで言う意味が分からない。
 それってまるで……あたしに、紺を諦めるなって言ってるみたい」



依然黙り込んでいる。


そして、一向にあたしから手を離そうとしない。



「……ありがとうございます。
 あたし、興絽さんの優しさ、忘れられる自信がありません」


「……ッ」



すると突然手が離され、ようやく開放されて興絽さんに顔を向けると、彼は後ろを向いていた。



「……俺、情けないな」


「……あたしが知る男性で、一番優しいです」




「……ありがとう。
 梓ちゃん、大好きだったよ」




……結局、興絽さんの表情を読むことはできなかった。