「……仕方ないですね。ちゃんと俺の話聞いてくださいよ?」

「……ッ!」



その、渋々といった様子で、だけど小さく浮かべられた笑みに。

あたしはパァっと顔を輝かせて、こくこく、勢いよくうなずく。



「聞く聞く! ありがと真鍋っ! やっぱやさしーい!」

「……場所は」

「あっ、またウチでいーよ! どうせ近いんだし、お母さんも真鍋来ればなんかよろこぶし!」

「……そうですか」



なんだか複雑そうな顔をしている真鍋には気付かず、あたしはルンルン鼻歌をうたい始めた。

そんなあたしを見下ろしながら、彼がメガネの奥の目を細める。



「志乃先輩、中学の頃からテスト近くなるたびに俺のこと家に呼んでますけど、彼氏とかできたらどーすんですか」

「あっ、だいじょぶだいじょぶー。そんな予定まったくないから」

「ふーん……」



ひらひら片手を振りながらあははと笑うあたしに、真鍋はそう呟いて押し黙った。

そんな彼を、こっそりまじまじと見つめる。


……なんか、今日の真鍋ヘンな感じ。

機嫌悪い、わけでもなくて……なんか、考え込んでる、みたいな?