「ふーんだ、どうせあたしは残念な女ですよー。真鍋みたいに頭良くないし、真鍋みたいにモテないし、胸も小さいし」

「……胸は別にいいんじゃないですか」



真鍋は言いながら、ずり落ちてきたグレーのマフラーを、肩にかけ直す。

それからふと、視線を夜空に向けた。



「先輩は、日本文学は読まないんでしたっけ?」

「あ、漫画なら読むよ!」

「志乃先輩に訊いた俺が馬鹿でした」



なっ、なにさー!とあたしが手ぶくろをした右手のこぶしをぐいぐいほっぺたに押し付けても、やっぱり真鍋は無表情のまま「痛いしメガネが危ないです先輩」と言うだけにとどまる。

だけど不意に、メガネのつる部分に手をやりながら、その整った顔をあたしから逸らした。



「……あんまり本読まないような人でも、結構知ってると思うけど」

「え?」



彼が呟いた言葉をうまく聞き取れなくて、あたしはきょとんと右隣りを見上げながら聞き返す。

だけど真鍋はそれ以上その話題に触れることなく、「なんでもないです」と呟いて、いつもの無表情に戻った。