たん、たん、たん。

小気味いい一定のリズムで、薄暗い階段を駆けあがる。

そして目の前に現れた重そうな扉をそっと押すと、錆びついた鈍い音とともに、眩しいくらいの青空が目に飛び込んできた。

それと、見慣れた茶色い髪の色。



「(やっぱりいた……)」



日差しに目を細めながら、屋上のコンクリートの上──頭の下に手を組んで仰向けに寝転ぶその人物へと、あたしはゆっくり近付いていく。

そしてその横にしゃがんで、「何してんの?」と声を掛けた。



「……ああ、みたらしか」



その人物──的場は、緩慢な動作で閉じていたまぶたを開けて、こちらを見た。

彼の言葉に、あたしはくちびるをとがらせる。



「……そのおだんごみたいな呼び方、いい加減やめてくんない。『水無』だってば」

「だって似てんじゃん」



的場はあっさりそう言ってひとつあくびをすると、再び目を閉じ、自分の右腕を目の上にかざした。

あたしはそんな的場の態度が気に入らなくて、むっと眉を寄せる。


……まあ、ヤツのこれは、いつものことなんだけど。


初めてここで名前を教えたときだって、「は? みたらし?」「いや『みずなし』」「あー、もういーや『みたらし』で」という、ゆるい会話が繰り広げられたのだ。

そう考えたあたしはとっとと、わざわざ国語の授業をサボってまでここに来た、話すべき本題に入ることにした。