「お前なんか、わかんねえよ。どうせ」
一生懸命に考えていると、兄が言った。
「うるさい」
普段兄には反抗しないが、さすがにこれには言い返す。
私は馬鹿なりにも、考えているのだ。
「そうよ、いろんな視点から物を見るのは大切なことなんだから」
母が諭すように言った。
そうだ、そうだ。
私は心の中で兄に言う。
でも手紙が示す内容なんかわかりゃあしない。
寧ろ、考えれば考えるほどにわからなくなる。
「ごめん、やっぱ、無理」
私は手紙を母に返す。
それみろ、と意地の悪そうにこっちを見てくる兄を睨んでやった。
「さぁ、そろそろ帰りましょうか」
風が冷たくなってきたのを感じ、母が声をかける。
やることを一通り済ませ、ぼおっとしていた私達。
何を待つことも無く、ただただ時間を過ごしていた。
でもやはり、それぞれに何か考えることがあったのだろう。
退屈そうにしているわけではなかった。
「うん、寒いし、帰ろ。……お父さん、またね」
まず動いたのは私だった。
それにつられるかのように、妹、そして兄が立ち上がる。
ぞろぞろと歩き出す私達は、無言だった。
帰り際に、もう一度だけお父さんのお墓を見た。
周りのお墓同様、それなりに色のある花の束が揺れている。
でも、その中にたった1本ある白色が印象的だった。
私はもう一度、さよならを告げた。
そして、思い出す。
“さよなら、一輪の真っ白な花”
私達家族にさよならを告げたわけではない、お父さんの残した言葉。
意味がわからない、お父さんのメッセージ。
私は目を閉じた。
一瞬視界が真っ暗になり、すぐに明かりを取り戻す。
たった一瞬の瞬きの間には、何も、浮かびはしないんだ。



