腹黒王子に囚われて

 
「でもさー、ほんと今思い出してもキュンキュンだよねー」


自分のクラスについて、当たり前のようにあたしの前の席の椅子に勝手に腰をかける美咲。

とくに気にせず、美咲の顔を見ていた。



「新條くんと、上沢先輩の、葵争奪戦!!

 あたしもその場に居合わせたかったー!!」


「……やめて」



美咲は一人盛り上がっていて、鋭く突っ込むあたしの声なんか耳に入っちゃいない。


出来ることなら、
あたしは思い出したくもない。


「上沢先輩のセリフも、キュンキュンだったなー。
 ところどころ、よく分からない言葉もあったみたいだけど」

「……」


今でもみんなは、拓先輩を憧れの先輩として慕っている。

だけどあれ以来、直接あたしの前に現れることはなくて……



(ごめん。
 しばらくは、誰とも付き合う気ないんだ)



なんて台詞を、告白してくる女の子に返しているらしい。