この日大学は学会の関係者しか入れないことになっていたため、学生の姿は見えなかった。
この辺りは休憩所なのだろうか、緑の木々とベンチが置いてある場所が目に入る。
(うわあ、こういう場所で読書したら気持ちいいだろうなあ)
頭の片隅で、部屋の本棚に読みかけの本があったことを思い出しながら、私は大きく息を吸った。
新緑の季節は人間に活力を与えることを実感しながら。

--ぼすっ。

「ひゃ」
ぶつけた鼻を押さえて立ち止まると、目の前に真っ白が広がった。
「あの…どうかしたんですか?」
ほぼ白である視界を見つめながら、私はその白衣に問いかけた。
「少し、座ろう」
言葉を理解したときには、既に先生がベンチの方に向かって歩き出していたため、私は従わざるを得なかった。
(珍しい日もあるもんだ)
彼の隣に腰掛けた私は、ただぼんやりと目の前の緑を見ていた。
最近はマンションか研究室だから、こういう場所は貴重な目の保養になる。