猫を離せない総長さんの話Ⅰ



馬乗りになって殴り続けてる圭人の腕にそっと触れた。

いつかみたいに。

「けーと、大丈夫、もう。死んじゃうよ。けーと。家に帰ろう。」

圭人は思い出したように動きを止めた。

「翠。」

ゆっくりと私を見る圭人はいつもの圭人。

「帰ろ」

そう言って抱きしめた。

あられもない姿で恥ずかしかったけど、そんなことを言ってる余裕はない。


私に圭人の着ていた紺色のセーターを着せて、歩いて帰った。

一言も話さなかったけど、繋がれた手と帰るという気持ちは同じだった。