場内が暗くなり、映画が始まった。
正直、映画の内容がまったく頭に入ってこない。
隣が気になって仕方がないのだ。
結城は映画に夢中のようで、たまに声に出して笑ったりしている。
「なんでこんなことになったんだろう」
奈々子はしきりにそればかり考えている。
気になるってどういうこと?
身構えなくていいって、どういうこと?
友達になりたいってことなんだろうか?
それともそれ以上の好意があるとか?
奈々子は首をふる。
そんな訳ない。
自分は地味だし、それにあまりにも普通だ。
胸は小さいし、身長も低い。
頭の出来も平均。
ごくごく普通の、二十六歳だ。
気づけば映画も後半にさしかかっている。
ラブコメのはずが、何やら深刻そうな雰囲気だ。
奈々子は気持ちを切り替えて映画に集中しようとした。
どうやら、主人公の飼い犬が車にひかれて、死んでしまったようだ。
いつもの奈々子なら号泣ものだが、今はまったく物語に入り込めてないので、涙の一つもでない。
でもほっとした。
泣いたりなんかしたら、お化粧がとれてしまう。
すると、隣でうめくような声がする。
見ると結城が両手を口にあてて、必死に泣くのを堪えていた。
いや、堪えているけど堪えきれないようで、ときどき声がでている。
奈々子はびっくりして、結城をじっと見てしまった。
結城は見られているのに気づいたのか、両手で顔を隠す。
奈々子は鞄からハンカチを取り出し、結城に「どうぞ」と手渡した。
結城はハンカチをもらうと、号泣体勢に入った。
めちゃくちゃ泣いてる……。
奈々子はなんだかおかしくなって、思わず笑ってしまった。
そういえば、映画を見てよく泣くって言ってたっけ。
映画が終わり、照明がつく。
結城はハンカチで顔を隠したまま動かない。
「大丈夫ですか?」
奈々子は声をかけた。
ハンカチからちらりと目を出した。
長いまつげは涙に濡れて、目は真っ赤になっている。
「犬が死んじゃうって、どこにも書いてなかった」
結城は不平を口にした。
「そうですね」
「犬を死なせる必要あった? ないよね?」
「でも、あの出来事で二人がわかり合えたっていうか」
奈々子が言うと、結城は恨めしそうに奈々子を見る。
「恥ずかしいよ」
結城は下を向く。
「大丈夫です」
奈々子は笑いを堪えながらそう言った。

