「今日、暇だねえ」
八田さんが診察室から受付に顔をだした。
「患者さんがいないってことは、具合の悪い人がいないってことなんだから、いいことなんだけどね」
鈴木さんも続いて顔を出した。
「かず子先生は?」
珠美が訊ねる。
「患者さんがいないから、一度上にあがっちゃった」
鈴木さんが言った。
「そういえばさ、昨日暇だったから久しぶりに須賀さんのブログみちゃった。」
「へえ」
八田さんが言う。
「相変わらずよくもまあ、あれだけついて回れるなあってくらい、写真ばんばん撮られてたけど」
そう言って鈴木さんは受付にあるコンピュータでネットを開く。
「みてみて」
と言ってそのページをひらいた。
「これ、奈々子ちゃんでしょう?」
「あ」
奈々子は口を開く。
土曜日の日付で、あのときとられた写真がアップされていた。
ただし、これまでと違って顔にモザイクがかかっている。
「ああ、ほんとだ。何? 一緒にごはん食べたりしてるの?」
八田さんが目を輝かせて言う。
珠美が意味ありげな視線を送っている。
「突撃レポって書いてあるよ。この女性は友達だって書いてある」
鈴木さんが言う。
「本当に友達?」
「えっと、はい」
奈々子が答えた。
「へえ」
珠美が言うと、奈々子は「黙ってて」というようににらんだ。
「まあ、付き合ってるって言われても、ぴんとこないけどね」
そう言って八田さんが笑う。
そこに自動扉がひらいて、小さな赤ん坊を抱えた母親が入ってくる。
それを機に、みなはそれぞれ仕事に戻って行った。
奈々子は少しほっとした。
顔にモザイクをかけてくれたんだ、あの子。
そう思うと自然と笑みがこぼれた。