拓海は自販機でコーラを買うと、ゆきのアパートの見えるガードレールに腰掛けて、しばらく待った。



今日二人で部屋を整理した。
女の子の持ち物は、男性には理解できない。
束になった化粧品サンプルは捨ててしまえばいいものを、ゆきは絶対に首を縦に振らなかった。


汗だくで片付けをしたので、ゆきはシャワーを浴びたいと言った。
拓海は外で待つことにしたのだ。


夕焼けの空は美しい。
コーラを一口飲んで、空を見上げた。


お盆は、人の魂が帰ってくる時期。


あの人の魂も、帰って来てるだろうか。
それとも……もう他の誰かになっているのだろうか。


夜は徐々に訪れる。
あんなに泣いていた蝉も、ぱたっと泣き止んだ。


ゆきをこのままアパートに帰らせていいのだろうか。
やっぱりなんとか説得をして、実家に帰らせるのがいいような気がする。


ふと視線を感じて目をあげた。

男が一人、ゆきのアパートに続く道から、こちらを見ている。
長身でスポーツマンタイプ。
手に携帯を持って、射るような視線を投げかけていた。


拓海の心に不安がふくらんでくる。


もしかして……。


拓海がガードレールから立ち上がると、その男は背を向けて、早足で遠ざかっていく。
拓海は後を追おうとして思いとどまった。
ゆきの部屋にいき、ドアベルを押す。


「はい?」
ゆきが濡れた髪のまま、玄関を開けた。

「支度ができたら、すぐにここを出よう」

「どうしたんですか?」

「今、男がいたんだ。俺をじっと見てた」


ゆきの顔が不安で曇る。


「わかりました。急いで支度します。拓海先生、中に入っていただいて、もう大丈夫ですから」
ゆきはそう言うと、拓海を部屋に入れた。


二人は駅まで早足で歩いた。
いつもは楽天的なゆきも、心配そうにしている。


「ゆき先生、やっぱり実家に帰ったほうがいい」
駅前で拓海はそう言った。


平日は帰宅するサラリーマンであふれる駅も、今日は割りと静かだ。
夜風が優しくふいている。


「でも……」

「理由を話したら、帰ってこいって言うはずだよ」

「理由を知ったら、もう実家から出させてもらえません」
ブルーのワンピースを着たゆきがうつむいた。


拓海は携帯を取り出し、時間を見る。
夜の九時。


「今日は俺のうちにおいで。同居人はいない。明日、実家に送って行く」


ゆきがうなだれる。


「この話をしなければいい。少しの間だけ親に甘えなよ。甘えられる親がいるんだから、そうした方がいい」


ゆきはためらいながらも、こくんと頷いた。