玄関を出ると、さわやかな気候だ。
初夏の日差し。
優しい風がふいて、緑の香りを運んでくる。
ゆきの部屋はアパートの一階だった。
そのまま道路に出て、拓海は困り果てる。
ここ、どこだろう。
駅はどっち?
聞けばよかった……。
なんとなく歩き出す。
途中の自販機でダイエットコーラを買った。
一気に半分ほど飲み干す。
静かな住宅地。
東京にありがちな狭小住宅が連なる。
花に水をやる女性。
犬の散歩をしている男性。
そこでスマホのGPSで自分の位置がわかることに思い至った。
スマホを見ると、恐ろしいことに勤めている幼稚園のほんの近くだ。
拓海は携帯の地図をたよりに、駅に向かった。
記憶をなくして、誰かとベッドを共にするなんてこと、本当にあるんだな。
拓海は考えた。
セックスをしたのは、久しぶりだった。
半年くらいしてないと思う。
なんでしちゃったんだろうな。
拓海はそればかり思い悩む。
これからどうやってゆきに接したらいいだろう。
正直に「覚えてません」と言ったほうがいいだろうか。
「そんなつもりじゃなかった。ごめんなさい」
そう言って謝ろうか。
いずれにせよ、仕事に大いに支障がでる。
せっかく慣れて来たところだったのに。
拓海は深いため息をついた。