土曜日、仕事終わりに、品川で待ち合わせをした。


天井の高い駅の改札。
人がたくさん流れて行く。


奈々子は自分の姿をチェックする。
今日は本当のデートだからと、きれいなクリーム色のワンピースを着て来た。
ヒールも高めだ。


時間通りに邦明が来た。
今日は私服だ。
デニムに赤いチェックのシャツ。


なんだか休日のパパみたい。


そう思ってから、奈々子は申し訳なくなって下を向いた。


「すいません、今日はこんな格好で。僕は今日お休みだったんです」

「そうなんですか。わざわざありがとうございます」
奈々子はお辞儀をする。

「そろそろ敬語やめてみません? あ、やめてみない?」
邦明が照れた様子で言う。

「はい」
奈々子はそう言ってから
「うん」
と言い直した。


二人は並んで歩き出した。


品川は背の高いビルが多い。
見上げるとホテルの窓に明かりがぽつぽつとついている。


日中の暑さは和らいで、夜風が心地よい。


坂を少し昇って、水族館へと到着した。


「夜の水族館は素敵だよ」
邦明が言う。

「へえ」
奈々子は答える。


道はライトアアップされている。
ビルの壁面には飛び上がるイルカの姿。
恋人達が手をつないでライトを見上げている。


邦明がそっと奈々子の手を握った。


奈々子に緊張が走る。


振りほどきたい気持ちを我慢して、そのまま手をつないで歩いた。


結城よりもずっとがっしりしてる。
でも優しく握るんだな。


ふと横をみると、窓ガラスに二人の姿が写っている。


邦明と隣に並ぶ奈々子。


違和感がない。
これが現実なんだ。

身の丈にあった彼。