犬の鳴き声で目が覚めた。

1月1日。元日の朝。


薄く瞼を上げると、見知らぬ天井が見えた。

部屋の空気は少しだけ冷たい。


(どこだっけ、此処……。

ああ、そうだ……貴一さんの実家だ。昨日から泊まりに来てるんだった……)


ぼんやりする意識のなかでこれまでの出来事を思い出す。
貴一さんの婚約者のふりして、貴一さんの実家に来ちゃったんだっけ。


(改めて考えると、とんでもない事してるよなぁ、あたし……)

そんなことを考えながら寝返りをうつ。
すると、寝返りをうったそこには、貴一さんの寝顔があって……。



(きいちさんっ!?なんでっ!?)


至近距離の貴一さんの寝顔に、寝ぼけ半分だった意識も一気に覚醒する。


……そうだ。貴一さんの髪を拭いてて、キスとかしてる流れでそのまま貴一さんのベットで寝ちゃったんだった。

昨日の寝たふりの時は全然眠れなかったのに、貴一さんの腕に抱かれた途端すぐに寝てしまったわけで。結局、思っていたようなR18展開は回避出来た。



貴一さんの寝顔は子供みたいに可愛い。
静かに寝息を立てていて、ぐっすり眠ってる。

無防備なその寝顔に、私の悪戯心もむくむくと膨らんでしまう。



(髪、触りたいなぁ……)


貴一さんの癖のあるふわっとした髪の毛は私のお気に入り。

もふっとした犬みたいでとっても障り心地がいいから、私はことあるごとについ貴一さんの髪を触ってしまうのだ。


(起こさないように、起こさないように……)

そーっと布団から手を伸ばす。

すると、


「えっち」

そう小さく呟いて、貴一さんが私の手を握った。


「〜〜っ!?」


(なんで!?起きてたの!?いつから!?)

ていうか、この状況デジャヴ。



「新年早々、目覚めのチューですか?」

「そんなわけないじゃないですか」

「ちぇー」


そうつまらなそうに貴一さんが零して起き上がる。私ものそりと体を起こす。


「おはよ、奈々ちゃん」

「おはようございます」


寝起きの、少し掠れた貴一さんの声にドキドキする。気付かれないように返事をすると、貴一さんは上機嫌で私のおデコにキスをする。

前髪をかきわけて、ちゅっと小さく。




「奈々ちゃん」

「はい」

「浴衣乱れててエロい」

「〜〜っ!?ばかっ!!」



……年が明けても、このエロおやじは相変わらずで。そんなエロおやじが好きな私も、相変わらず。