「なんであんな嘘ついたのよ」


学校に来て早々、私は陸に文句を言った。
本当は風邪なんて引いていない貴一さんを風邪だと嘘を言い、私を貴一さんと引き合わせた。

なんだってこんな嘘を……。



「直接会って話すきっかけが必要かなって思ったから」

詰め寄る私に陸は悪びれる様子もなくそんなことを言ってきた。


話すきっかけってなに。
話して得たことなんて、貴一さんともう本当に顔が合わせられなくなったということだけだ。



「その様子じゃ、失敗だったみたいだな。……あのおっさん、ああ見えて結構真面目だからなー」


なんて陸がなにか意味深なことを呟いていたりしてた。

けど、これ以上の貴一さんの話題は辛くて、私は聞こえないふりして自分の席についた。


(なによ、陸のばーかっ)

心のなかでそう悪態つく。
机の上に置いた鞄のなかには、ホワイトデーのお菓子。

貴一さんにじゃない。
澪に用意してきたものだ。


(こうなったら陸より先に渡して、今日は澪のこと独り占めしてやろう)


なんて。なかなか子どもっぽい仕返しを頭のなかで考えて、お菓子を手に私は席を立った。




「澪ー!これバレンタインのお礼!!」


そうして、登校してきたばかりの澪を教室の前で待ち伏せてお礼のお菓子を渡した。

中身はフルーツのパウンドケーキ。
一応手作り。

お返しじゃなくて、お礼と言ったのはバレンタインの時はすごくお世話になっちゃったから。ほんとはこんなちっちゃなケーキじゃ足りないくらいだけど。



「……わ、私に?」

「うん」

「嬉しい……ありがとう、奈々子ちゃん!」


そう言って受け取った袋をきゅっと抱き締める澪が可愛い。



「澪は?陸にちゃんと持ってきた?」

「うん。お菓子はやっぱり自信無くてね、今回はお弁当作ってみたの」

「お弁当!?」


澪手作りのお弁当!

(澪からの手作り弁当なんて、陸の奴幸せ者過ぎるんじゃないの!!まったくもぅ、リア充お幸せに!!)


なんてついつい心のなかで叫んでいると、それを変な風に捉えたのか、澪が「や、やっぱり……変だったかな……」と俯きながらそう呟いた。


「違う違う!!変じゃないって!陸絶対喜ぶよ!!」


そう慌てて否定する。

ここでちゃんとフォローしとかないと、「やっぱり渡すのやめよう……」なんて澪なら思いかねないし。

見てるこっちが不安になるくらい澪はネガティブっ子だから。これでも最初に会った時より随分ましになったけど。



「ね!ちゃんと渡すんだよ?」

「うん」



そうしてなんとか澪を後押し。
一緒に教室に入ると澪はすぐに陸へ話し掛けに行った。



(よしよし。一件落着〜!)


澪と陸のやりとりをニヨニヨしながら眺めつつ私も自分の席についた。

陸のことはまだ若干ムカつくけど……、澪が可愛いくて仕方ないから、今日のところは陸への仕返しはやめてあげようと思った。