「へんだよね、こんなの……っ。自分でもわかってるの、なんであんなおじさん好きなんだろって」
澪はじっと私の話を聞いていた。
驚くことも、なにか言うこともしないで。
「でも、あたし、貴一さんのこと……好きなのやめられなくて……、全然相手にされてなかったし、どうせダメになるって心のどこかではわかってたのに、それでも好きで……っ、どうしようもなくて」
言葉にする度、涙がボロボロ零れ落ちる。澪が痛いくらいに私の手を握り締めた。
「それで……っ」
苦しくて堪らない。
酷い嘔吐感に襲われて、咄嗟に口元を抑える。
「奈々子ちゃんっ!」
澪が私の肩を抱き締めた。
「言って!吐いてもいいからっ、私、ぜんぶ受け止めるからっ」
泣きそうな声で澪が懸命にそう叫んだ。
「きいちさん……結婚するって、言ったのっ」
私の知らない誰かと。
貴一さんは結婚してしまう。
そう口にした瞬間、また大粒の涙がボロボロ零れ落ちた。澪はなにも言わないまま、私の体をぎゅうっと強く抱き締めてくれた。
「あたしじゃ、だめだった……っ」
喉の奥が痛い。
心がずっと悲鳴を上げている。