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‥‥源さん


何度も名前を呼んでも、
彼は返事をしない。

彼の広い背中をじっと見つめながら、
心の中でただ何度も繰り返す


源さん‥‥


源さん‥!


愛おしくてたまらないその背中。

今すぐにでも抱きつきたい。


「‥‥なんですか。」


「え‥‥?」


源さんは首を回して目線をこちらに向けた。


その目は、
何時ものようにただとても綺麗だった。



「さっきから、ずっと俺の名前を呼んでたじゃないですか。
どうした?」


‥‥聞こえてたの?

いや、むしろ私が声に出していたのかもしれない。

けれど、恥ずかしいとか
照れる以前に私は彼に私の声が届いていたという事実が嬉しくてたまらなかった


かれは、
私の声が聴こえていたのだ


そりゃあ耳もついてるし、
難聴なわけでもない。
そして病気を患っているわけでもない


けれど、時折私は

彼がちゃんと“こっち”を見ているのか不安になる


いつもただ同じ風景を同じ体勢で見つめて、いつもの葉巻を咥えて静かに目をつむるだけ。


そんな彼の宝石のような深く黒い瞳も、声色も。

まるでどこが違う世界に問いかけているようにしか見えないのだった