「私の大好きな人を傷つけるのは……たとえそれが本人であっても許さないから」

私はそれだけ言うと、むにっと啓悟お兄ちゃんの頬を摘まんで、ちょっとクスッと笑ってみせる。

「……ね?わかった?」

啓悟お兄ちゃんは目を見開くと、ただ静かに、声をだすこともなく泣き出した。

ゆるゆるとその瞳が大きく揺れ、涙が溢れ出てくるその様子を、そこにいる誰もが見守っていた。何も言わずに。

だって、誰かが何かをしなくても。

静かに、静かに。

零れる涙がきっと、心さえも洗い流してくれるだろうから。







しばらくの間、啓悟お兄ちゃんは泣いたままだったけど、段々とそれはおさまってくる。

「……もう、大丈夫?」

「…うん。ありがとうな」

目も真っ赤だし、頬には涙のあとがあるし、ぱっと見は大丈夫に見えないけど。

…ていうか私も泣きまくったから、もしかしたらこうなってるのかな?

……ま、いいか。